大分大学教育学研究科教職大学院視察調査研修報告書

大分大学教育学研究科教職大学院視察調査研修報告書
第1 視察(調査)項目

インターネット、AIなどのテクノロジーの急激な進歩、およびグローバル化により全く新しい人類社会に入りつつある。この従来の常識が通用しづらくなった現代社会において、子どもの教育環境についても再考する必要がある。具体的には学校、家庭のみならず地域が一体となって連携協力しあい、子どもを育てる必要性が高まっている。いわゆる「協育」と呼ばれるものである。
そこでこの分野の研究をされておられる大分大学名誉教授、教育学研究科教職大学院特任教授の山崎清男先生にお話を聞かせていただいた。

第2 復命事項(所見及び感想)

1 「協育」に関する研究を始めた経緯について。
知は命題知と経験値に分類することができる。
命題知は数値化言語化できる知識を意味する。他方、経験値は経験に根差し、数値化、言語化することが難しい知を意味する。
例えば300グラム足す200グラムは500グラムになる、または燃焼のためには酸素が必要であるというのが命題知である。他方500グラムの重さの実感または、効率的に酸素を取り込み燃焼作用を活発化させるキャンプにおける炉の組み方を経験値という。
社会性などは経験値に依存する側面が大きく、他者とのかかわりの中で身に着ける必要がある。
この意味において、地域の様々なバックグラウンドを持つ方々との交流が子どもが社会性を身に着けるために不可欠である。
このことを深めるために、様々な関係者の協力のもと子ども達を育成する「協育」に関する研究を始めた。

2 「協育」に関する研究を始めた社会情勢について

⑴ かって我が国では学校と地域・家庭が密接であった。たとえば子どもが悪いことをすると、教師や保護者のみならず、近所の大人たちも遠慮なく叱ったり、親が多忙の際は、子どもは、よその家に上がり食事をしたりしていた。
しかし、みだりに私生活を知られたくないというプライバシー意識の高まりや、共働き世帯の増加により、学校、家庭、地域の関係が希薄化し、地域で子どもを育てることが難しくなってきた。
また食品添加物などの影響により集中力が低下し、授業中落ち着くことができず、教室の床に転がる児童などもいる中、多数の児童を一人の教員が教えることは困難である。つまり学校が学校として成り立たなくなってきた現状がある。
⑵ また教育行政は強制力を行使できる権力的行政ではない。したがって給食費の集金一つにしても学校のみに責任を押し付けることは負担が過重となり、妥当でない。
⑶ さらに団塊世代の大量引退により、教員の年齢構成がいびつな形となっている。これに対応するために新卒教師を大量採用することによる弊害も指摘されている。つまり教員採用試験の倍率が3倍以下になると教員の質が下がるという研究結果も出ているなか、小学校教員採用試験の倍率は1倍台となっている。
また新任教員を大量採用すると、この世代が管理職になると逆ピラミッドのいびつな人口構成となってしまうため慎重に考える必要がある。
⑷ さらにまたコミュニティスクール制度や教育学修士課程が創設されたが、なかなか効果が出ていないという現状がある。
⑸ 以上のように学校だけでは、子どもの教育を十分に行うことは難しいことから地域、学校、家庭が協力して教育効果を高める研究を行っている。

3 加古川市のこれからの「協育」について
社会が高度化複雑化するなか、従来の対応では、子どもの健全育成は難しくなっている。学校、地域、家庭が協力して新しいシステムを構築する必要がある。市民性、地域性に応じて加古川市独自の新しい「協育」システムを構築したい。
例えば、小学校でも教科担任制が採用され、英語教育が始まる。これにともない本物の英語の発音を身につけている市民の協力が必要となる。
加古川市においても、この分野で秀でている人材は少なくない。しかし、彼らに十分な活躍の場が与えられていないのが現状である。
このような地域の人的資源を掘り起こし、「協育」への協力を依頼すべきであろう。

4 いかにして地域の人的資源を掘り起こすかについて山崎先生からのアドバイス
教育委員会がファシリテーターとなり、PTA、校長、自治会長を集め人的ネットワークを構築することが大切である。
このようなシステムをつくりたいと誰かが呼びかける必要がある。
議員にこの役割を果たしてもらいたい。

5 取組み自治体の事例について
長崎市、佐伯市、豊後高田市などが積極的に「協育」に取り組んでいる。
過疎化が進んでいる自治体が危機意識をもって取り組んでいる。
加古川市は全国でも有数の転出超過が続いている。
したがって強烈な危機意識をもって「協育」にとりくむ必要がある。

6 ボランティアで協力する個人や事業所の拡大方法などについて
各種企業組合、医師会、弁護士会、行政書士会など各種職業団体に協力要請すると効果的である。

7 最後に
私は地元の子供食堂のお手伝いをさせていただいたり、小学生に職業体験をしていただくイベントのお手伝いをさせていただいている。
そこには地域の様々な特技をもっておられる方々が参加されておられる。これらの方々はまさに地域の貴重な人的資源といえる。
現状はこのような地域がもつ潜在的な力が十分に活用されているとはいいがたい。団塊世代が大量に退職し、様々な分野のエキスパートが地域にその才能を発揮することなく埋もれている。いまこそこれらの方々を巻き込み、PTC(Parents Teacher Community)親、教師、地域社会の連携を強化し、この状況を少しでも改善したい。
ただし私生活を他者によって干渉されたくないというプライバシー権や教育方針の決定という自己決定権の要請も無視することはできない。
新しい時代にふさわしい上記各利益の適切な調和が求められている。
以上

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