北九州市出張調査研修報告書

以下は、北九州市出張調査研修報告書です。長文ですがお読みいただけると幸いです。
第1 視察(調査)事項
1 北九州市地域公共交通網形成計画
 北九州市では、平成20年に「北九州市環境首都総合交通戦略」を策定した。その理念は「みんなの思いやりと行動が支える、地球にやさしく安心して移動できるまち」である。
そしてその基本方針は、①利用しやすく安心で快適な交通体系の構築、②超高齢化社会における「市民の足」の確保、③地球環境にやさしい交通手段の利用促進である。
この総合交通戦略を一部改訂することにより策定されたのが「北九州市地域公共交通網形成計画」である。この計画に基づく主な取り組みの一つである、おでかけ交通の支援を北九州市は行っている。
このおでかけ交通を八幡東地区の枝光本町商店街で行っているのが、今回視察させていただいた、やまさか乗り合いタクシーである。
2 やまさか乗り合いタクシー
 かって八幡地区は1901年創業の官営八幡製鐵所(現新日鐵住金)により繁栄し、最盛期には労働者は約3万人に達した。この時期、人口の急増に対応するため無秩序・無計画に宅地が開発された。この住宅の多くは坂道の入り組んだ山の斜面にある。
しかし1990年の新日鐵本事務所の移転により、従業員数は約2500人と最盛期の10分の1以下に減少し、高齢化率も30パーセントを超えた。これにともない、職を求めて若者達が街を去り、高齢者が残された。
第2 復命事項(所見及び感想)
 今回の視察においては、北九州市役所において、北九州市地域公共交通網形成計画の概要についてご講義いただいたのちに、八幡東区枝光地区にて、やまさか乗り合いタクシー事務所を訪問し、実際に乗車した。
 枝光地区本町商店街はこの地域の台所として、最盛期には「人の頭で前が見えないほど」繁栄していた。しかし、急速な少子高齢化、人口流出、近隣にできた大型ショッピングセンターの影響により、多くの商店が閉店し、シャッター商店街と化した。
 しかし、北九州市はこの状況を前に手をこまねいているわけではない。地域の再生と、高齢者の積極的な外出を促すことにより健康維持を図ることを目的として、枝光やまさか乗合ジャンボタクシー運行推進委員会を発足した。
この会は、北九州市、地元自治会、商店街、地元交通事業者である株式会社光タクシーによって構成されている。この乗合ジャンボタクシーには以下の創意工夫、特徴、成果がある。
1 枝光本町商店街を起点にしている。つまり、地元商店街の利用促進を図っている。大型ショッピングモールに行く場合も一度、地元商店街で下車し、乗り換える必要がある。
2 急傾斜の住宅地を回る5ルート(1周15分から20分程度)がある。これにより、買物難民となった高齢者の方々にきめ細かいサービスを提供している。
3 商店街内に設置されたバス待合室は廃業したカフェを改装して作られた。このため木材がふんだんに使われ、利用者がリラックスできる空間となっている。
4 乗合ジャンボタクシーは、9人乗りワゴン車である。採算性の観点において、利用者数との関係で適正なサイズといえる。
5 ワゴン車を利用しているため、通常のバスでは侵入困難な狭隘な道路にも入っていける。これにより、従来公共交通の恩恵を受けることができなかった高齢者の足として重宝されている。
6 ワゴン車のドアが開披する際に、ステップが自動的にスライドするようになっている。これにより、足が不自由な方の乗下車が楽になっている。
7 すべての座席の前に下車希望を知らせる、自転車のベルが取り付けられている。低コストで、すべての座席の方が容易に下車希望を知らせることができるようになっている。
8 一回の利用料は一律200円である。これにより、支払いが簡便になり、支払い時の混乱を避けることができる。
9 事実上、乗車時、下車時いずれの際に利用料を支払ってもよい。これにより、財布からお金を出すタイミングを利用者が選択でき、利用者の乗車時の滞留を防ぐことができる。
10 停留所は約100メートルおきにある。これにより自宅から遠くにあるバス停留所まで歩くことが難しい高齢者も気軽に外出できるようになる。
11 一般的な停留所柱ではなく、バス停留所を示す表示を道路上にペンキで記載している。これにより、コスト削減を図るとともに急傾斜の狭隘道路に停留所柱を立てることにより生じる危険性に配慮がなされている。
12 乗客が普段利用する下車停留所が近づいても、下車の意思表示を失念している場合、運転手から、「下車されますか?」と声かけをする。利用者本位の地域密着型サービスといえる。
13 満席にもかかわらず、乗車希望者がいる場合には、次の停留所で下車予定の利用者が席を譲る場合がある。互助の精神が生きているといえる。
14 乗合ジャンボタクシーの運行開始により、丘陵地に住む高齢者が商店街の利用を再開するようになった。一日に約300人を商店街に運んでいる。これにより一時期は約70軒まで落ち込んだ店舗数が約80軒まで回復した。ただしピーク時の約120軒の回復がこれからの課題といえよう。
15 商店街利用者が回復し始めたことにより、一度街をでた後継者世代が戻り、店を継ぐ現象が始まっている。この現象に伴い、30代から40代の後継者15人(うち女性は8人)が集まり、全国商店街支援センターのトータルプラン作成支援事業ビジョンづくりコースを活用し、商店街の今後について検討を重ねている。これはよそ者・若者・女性の力で活力を地域に与える試みといえよう。
16 この後継者の若者達と、地元劇団が地元銀行跡地(枝光本町商店街アイアンシアター)を拠点に活動することで劇団の聖地と呼ばれるようになり、「枝光まちなか芸術祭」開催がメディアに取り上げられるようになった。つまり様々なシナジー効果が表れ始めている。
17 利用するほどお得になる、枝光ノリノリパスを発行することにより、利用促進の努力をしている。このパスには顔写真が貼付されており、他人のパスを悪用することを防止している。ただし、運転手と高頻度利用者の多くは顔見知りであることから不正利用はあまりないとのこと。
18 ノリノリパス(ICカード)定期券による乗車ごとに利用ポイントを付与しポイントがたまると商店街と連携してプレゼントを贈る。これにより利用促進が期待できる。
19 国連サミットで採択された、持続可能な開発目標(SDGs)の11番目の目標である「住み続けられるまちづくり」の理念にかなっている。
20 自家用車に比べて、乗合ジャンボタクシーは町全体のCO2削減に寄与する。地球温暖化に伴う異常気象対策になっている。
21 高齢者の運転免許自主返納を促すことによる、交通事故の減少に貢献している。
22 市の補助は広報活動や、乗降口ステップの設置など限定的なものである。補助金漬けにならないように特殊な計算式で限定的な支援をしている。これは企業努力を促す工夫といえる。
以上

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