篠山市出張調査研修報告書

50771904_1675147889298563_632162982029164544_n.jpg第1 視察(調査)項目
多くの地方都市と同様に、加古川市においても赤字バス路線維持による財政負担の増加と、高齢者等の移動手段の維持の要請との調和をいかに図るかに頭を悩ましている。バス利用者数が一定レベルを下回ると、バス路線を維持するよりもタクシー料金助成制度を確立するほうが上記調和の実現に資すると考える。したがってタクシー料金助成事業において先行している篠山市を視察させていただいた。

第2 復命事項(所見及び感想)
以下は私の質問事項と、それに対する篠山市ご担当者のご回答および、私の感想である。

1 事業開始までの経緯について
篠山市では平成17年にコミュニティバスを導入し、路線バスが走らない地域での交通手段を確保してきた。しかし停留所まで歩くのも困難な高齢者が増加したことなどから利用者は減少している。そこで、さまざまな交通手段を組み合わせ、より利用しやすい公共交通への大幅な見直しをするために公共交通再編案を作成した。この案の内容は以下の通りである。
⑴ 市内の各地区に対して、谷が多いなどの地形等特性に応じた、バス、タクシー、自家用車等のなんらかの移動手段を確保する。
⑵ どの方面、地区からも市役所および篠山口駅のほか、特に需要が多い医療機関、商業施設まで、多くとも1回の乗り換えで往来可能にし、1日3往復は確保する。
⑶ バスだけでは十分にサービスが行き届かない方面・地区に対して、交通機関同士が競合しないよう日中を減便する代わりに、市町村有償運送事業や乗合タクシーなどより小回りの利く、きめ細かな運行手段を提案し、支援する。
この、公共交通再編に合わせて、路線バスや、コミュニティバスなどを補うために、高齢者・障がい者タクシー料金助成事業を実施した。

2 現状の取組み状況について
⑴ 対象
市内に住所を有する以下の一定の条件に該当する方。
① 75歳以上の方
② 身体障がい者手帳1級又は2級所持者
③ 療養手帳A判定所持者
④ 精神障がい者保健福祉手帳1級所持者
⑵ 助成券交付枚数
1月当たり2枚
⑶ 助成額
助成券1枚の助成額は、要したタクシー運賃から1000円を控除した額の半額。
ただし、2000円が上限。
⑷ 助成券の利用方法
① 助成券の使用は、1回の乗車につき1枚まで。
② 乗車地、降車地のいずれもが市内の場合のみ利用が可能。

3 利用者の声について
⑴ タクシー料金は高額なので、少しでも助成があるのはありがたい。
⑵ 市外でも利用できればよい。

4 タクシー事業者の声について
⑴ 助成額の計算が複雑との意見があり、助成料金の早見表を作成した。
⑵ 車内にチラシを掲示したり、対象となっている方で助成券を持っていない方に対しては、制度の案内を行っている。
⑶ 少しでもタクシー利用者が増え、増収につながればという思いから、制度に対しても前向きである。
⑷ 一般タクシーの利用者数は特に変化はない。
⑸ 福祉タクシーの利用者数は増加している。

5 料金助成事業の恩恵を受けない市民の声について
所得制限を設けず、75歳以上の方であればすべての方が対象となるため、恩恵を受けない市民の声というものはない。

6 社会的インパクトについて
⑴ まだ具体的な実証データはないものの、地域公共交通の充実と高齢者や障害者の外出の機会、社会参加の拡大を図ることができると思われる。
⑵ 別制度であるものの、車椅子の方の自己負担は上限市内500円、市外1000円である。したがって社会参加がしやすくなったものと考えられる。

7 今後の課題について
申請者は徐々に増えてきているが、利用はまだまだ少ない状況である。その理由は以下の通りと分析される。
⑴ 高齢者自身が自動車を所有し、自分で運転できる方が多いこと。ちなみに農業用の軽トラックを運転する90歳代の方もおられる。農家にとって自動車の運転は必須のため、なかなか免許返納は進まない。
⑵ タクシーは贅沢であるという意識があること。この意識は高齢化が進み、足腰の不自由な方が増加し、タクシー利用の必要性が切実になると、変化していくものと思われる。また自動運転タクシーが実現すると、タクシー運転手の人件費分コストが下がるため、タクシーは贅沢であるとの意識が希薄になると予測する。
⑶ この地域では、もともとタクシーを利用する習慣があまりなかった。
⑷ 1000円までは全額自己負担、超えた部分についても2分の1は自己負担になるなど、比較的自己負担額が多い。
⑸ 現行の制度で2年間実施し、利用者や事業者の意見を聴きながら、利用しやすい制度へ改善を図る。

8 最後に
⑴ 谷が多く、起伏が多いこの地域においては、高齢者や身体障がい者が、バス停まで歩行することは容易でない。したがって、自宅玄関先で乗降できるタクシーは、バスよりも地理的条件に適合していると感じた。
⑵ 買物難民問題については移動販売、通院困難者問題については往診サービスなどと合わせて制度を最適化していく余地があると考えた。
⑶ 助成額について、助成券1枚の助成額は、要したタクシー運賃から1000円を控除した額の半額、ただし、2000円が上限となっている。この計算式は以下の点で興味深い。
①常に一定の自己負担を求めることにより、利用者に市の財政状況について考える契機となる。
②上限が設けてあることから、利用者に一定の責任感・緊張感を持っていただく制度となっている。
⑷ 高齢者・障がい者タクシー料金助成事業により、高齢者や障がい者の方々が低廉なコストで外出するようになることは望ましいことである。しかし、この制度を過度に進めることにより、地域の支え合いの絆が希薄化することをご担当者が、懸念されておられたのが印象に残った。つまり従来、高齢者や障がい者の移動を助けていた近隣住民との人間関係が希薄化し、コミュニケーションの機会が失われる可能性がある。これにより従来当たり前のように行われていた日常の声かけや、安否確認の機会が減少することがあってはいけないと感じた。また困難を抱える方を支えていた方の張り合い、生きがい、自己の存在価値の根拠を奪う可能性もあると感じた。これらのマイナス面にも配慮しつつ施策を最適化する必要があると考える。         以上